思想・文学がリアリティを失い、自らの実存を仮託するリアリティがなくなった現代では、薄められ一般人にも利用可能なものにされた、お手軽な心理学・精神医学の言葉がその欠落を埋めている、つまり社会が心理学化している、というのが本書のアウトラインだ。詳しくは本書単行本版に多くのレビューが載っているので繰り返さない。
ただし、文庫版発売のために書き下ろされた文庫版あとがきに書いてあるように、単行本出版時から5年経ち、社会の変化に伴って本書での筆者の考えにも微妙に変化が生じていることに注意する必要がある。筆者は「心理学化」というアイデアは過去のものになってしまっていると思っているようで、いまや個人は社会学の「個人の内面に介入しない言葉」が心理学の代替になってきている、つまり「社会の心理学化」から「社会の社会学化」になりつつあるという。しかし、そうした事態に対し、精神分析的な倫理を見出し、実践していこうという筆者の結論は変わっていないようだ。以上のことから、未読の方には単行本より文庫版をオススメしたい。