金融危機や国際紛争を発端に、さらに原油価格の高騰等が重なることにより「100年に一度」といわれる世界的な不況の嵐が吹き荒れている。誰もが深い井戸に落ちたような閉塞感にかられ、危機的状況に怯えるこの時期、著者は、今こそ日本における第三の革新の機会ととらえ、真の人づくり(イノベーターの育成)の必要性を論じている。
著者は21世紀におけるイノベーターの育成(フロニーモス教育)を語るにあたり、古代ギリシア(タレス、ソクラテス、プラトン、アリストテレス)から端を発するフロニーモス教育の系譜を時代背景とともに解説している。また、これまで看過されていた江戸時代から大正時代にかけての教育体系が、実は、西洋に勝るとも劣らないフロニーモス教育であったことを、第三者である欧米人の評価を引用しながら検証している。
しかし、日本をわずか30年たらずで世界の列強国まで押し上げたこの教育体制は、昭和に入り、高級官僚や軍部による儒教的修身教育のために崩壊し、その結果、破局的な敗戦を迎えてしまった。このようにフロニーモス教育は、優れた教育者の存在のみならず、その時の社会環境(教育への社会の関与の有無)が成否の鍵を握ると著者は強調している。
現在の教育は、社会へ即戦力となる労働力を供給するため、実体験なしでノウハウのみを教えているような傾向がある。そのため、自分で考える習慣がなくなり、すべて受身で、あるいは自己中心的で直感のみにより行動する人が増えている。それはニートの増加や犯罪の若年化、凶暴化に現れている。著者は、単なる知識の刷り込みではなく、本物に触れ、人との対話によって理解を深めるプロセス、換言すれば心を研ぐ教育こそが、今、最も求められていると言う。何をもって自分の判断基準とするか、それを習得するためには何をすべきかを、再度、考えさせられる一冊である。