症状を訴えると、「それじゃ、このクスリの量を増やしましょう」という
お医者さんが多い中で、著者は、
回復のためには何よりも人間的かかわり、相談や対話といったカウンセリング的かかわりが重要だと
言います。その回復のための具体的な理念(ポイント)、対話の進め方などの例を
収録し、わかりやすい解説を加えた本です。
もちろん、クスリの重要性を否定するわけではなく、クスリを使う意味(位置づけ)も本書で説明します。
また、心の病気というのは、(苦しさに圧倒されている度合いが異なりはするものの)心の悩み、苦しみとほとんど同義という意味で、
本書は、お医者やカウンセラーの手を借りず一人で何とかしのいでいる悩める方々や、
広く人の心の深みに関心を持つ方々にも助けになると思います。
推薦文を寄せておられる柏木哲夫さんは、患者さんやご家族の方々にも
広く読まれることを望みたいと記され、辻悟さんは話し合いを中心に置いた臨床を
これからしようと思っている精神科医にとって、良い参考書になることだろう…と書いておられます。
抗うつ剤については、
うつ状態にある患者の治療目標は、順調にいっている自分も順調にいっていないうつの自分も本来の自分であると
受け入れていくことにあると思われますが、現実にうつ気分に圧倒されている患者にはそれが難しいのです。
…だから考えやすくさせる(ありのままの自分を自分として受け入れやすくする)という点で、
安定剤の使用とほぼ同じ目的を持っています…などと書いてありました。
私自身、ガスの元栓や、玄関のドアのカギ締め確認、
宛名の書き間違いはないか、郵便物が確かにポストの中に入ったか…などを幾度も繰り返し、
時間を使う人ですが、そういう患者さんとの(本書の)対話の中から、
短く省略(変更)してご紹介させていただきます。
「万が一ガス栓や電気のスイッチを消し忘れていたら大変ですよね」(医師)
「そうなんです。もし消し忘れていたり、鍵をかけ忘れていたらと思うと不安です」(患者)
「ところで、確認を続けたとして、不安とれますか?」(医師)「無理です」(患者)
「あなたはしかし、そのことに気づかずに、気のすむまで確認しようとしてませんか?」(医師)
「ええ、気のすむまでやろうとしています…でもなかなか気がすみません」(患者)
「もっともっと確認を長時間続けたりすると、気がすみますか?」(医師)
「やっぱり無理です」(患者)
「では、まったく確かめないのと、十回ぐらい確認するのだったら、どちらが気がすみますか?」(医師)
「そりゃ十回ぐらいの方ですけど、そんなことやってたら異常だし、だいいち時間がかかって他のことできないし…」(患者)
「この気になること、心配、不安はいくら確認してもある程度は残ってしまう。
だけど、一回も確認しないよりは、数回確認するほうが不安感はある程度減る…
一回も確認しないでおくと、不安が多く残るのでつらい。しかし、十回程度確認すると、
不安はそれだけ減るかもしれないが、時間が多くかかるし、普通の人間はそんなことしないから、
異常感を抱かされてつらい。結局どっちもつらいということになりませんか?」(医師)
「あなたは何回ぐらいの確認だと一番いいの?」(医師)
「そう、(確認の回数は)あなたが決断するよりしようがないんです」(患者)145ページあたり
上のような対話記録を含む症例の解説が、
不安神経症、心気症、強迫神経症、うつ病、統合失調症などの事例を含め、
十数例のっています。(事実関係を変えたり、入れ替えたりして、プライバシーへの配慮が
されています。)
うつ病については、
普通の憂うつな状態の程度が強くなり、自分の手に負えなくなったものと
考えていいとあり、また、以下の記述に、自分自身の思考のクセに思い当たり「なるほど」と思わされました。
「健常者が調子の良い自分も悪い自分も本来の自分であると認められるのに対して、
うつ病者は調子の悪い自分は本来の自分ではないという姿勢に陥る…また、基準の設定が高い…」
身近にうつの人がいるので、これらを含め、「うつ病」についての説明も参考になりました。
ご興味のあられる方々におすすめさせていただきます。