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上巻ではまずヒトの心が非常に精妙に作られていること,そしてそれは計算機械として考えられるべきでそのデザインは進化的に考えるべきだという大まかな話を提示する.この1章の最後の部分は進化心理学へのよくある誤解への回答の要を得たまとめになっている.興味のある方には彼の最近著「Blank Slate」を推薦したい.
2章は認知科学の立場から心がニューラルネットワークによる計算機械であり,さらに単純な並列モデルではなく構造を持つものであることを説明する.ここは少し専門的でやや読み進めにくいが是非がんばって読み進めて欲しい.3章でその構造が進化によるデザインで説明すべきであるとする.(ここがこの上巻の白眉)いずれも非常に説得的にかつユーモアとウィットにあふれる叙述である.6年前の感動ふたたびである.
訳はベテランの訳者で平易な日本語になっており,また内容も正確(若手進化心理学者平石先生が協力されているらしい).しかし(原作が広い学問分野にわたるため)やはり一部専門用語がこなれていない.また一番残念なのは原作における吹き出さずにいられないユーモアが硬く!訳されて活きがないこと(第3章のタイトルは原作では”Revenge of the Nerds”(オタクの逆襲)なのになんで「脳の進化」なの?それを言うなら本のサブタイトル「人間関係にどうかかわるか」自体ミスリーディング)まあ訳されただけでもよしとすべきで,ないものねだりということでしょうか.
下巻は人間関係と芸術宗教その他について.人間関係に触れる第7章はオーソドックスな進化心理学の案内書.1990年代から急速に興隆した進化心理学の要を得た解説になっており,ピンカー流にユーモアたっぷりに裁いていきます.フェミニズムからの進化心理学への批判が的外れであることを解説しているところはすっきりしていて是非フェミニズム学派のヒトにも読んで欲しい.
最終章は芸術,宗教について.ピンカーは十分熟慮の上でのby-product説を主張しています.私としてはMillerのMating Mindの性淘汰説の方にひかれます.そして最後に自由意思と責任,意識の問題が謎なのはヒトの心は進化適応の産物なのでそのような謎をとくための認知機構がないためだとする逆転の説明.最近著でデネットに批判されているところですが今読んでみるとこれはこれで結構説得的です.
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