東日本大震災では、直接被害を受けていない日本人も、少なからず精神的な影響を受けました。「何かをしたい」という気持ちと「何もできない」という罪悪感、そして、いぜんとして解決しない原子力発電所と放射能の問題に対する怒りが、多くの人々の心をささくれ立ったものにしています。被災地に入り込んでボランティアをされた方々の勇気と行動力には頭が下がる思いでいますが、被災で心に傷を負った方々に接する心の準備ができているのかどうか、それも気になっていました。
本書は、ノンフィクション作家の最相葉月氏が、阪神・淡路大震災以降、被災された方々のケアや調査研究に従事され、事件や事故、災害の犠牲になった方々のトラウマ治療やその支援者の方々への研究に携わってこられた精神科医の加藤寛氏を取材する形の共著です。東日本大震災後に兵庫県チームの司令塔として被災地で活動された加藤氏の語る「心のケア」をぜひ読んでみたいと思いました。
まず、「心のケア」という言葉ですが、最相氏が書いておられるように「阪神を機によく使われるようになったこの言葉について、多くのメディアで情報が錯綜しているが、精神科医や心理士で構成される心のケアチームが災害直後に行うのは、被災者に被災体験を聞いてカウンセリングすることではない」のです。これを知っている人は少ないのではないでしょうか。
「心のケア」がそれだけの言葉では説明しきれない、広範囲で、深く、しかも、多様性や柔軟性があるものだということは、誤解を防ぐためにもぜひ本書を読んでいただきたいのですが、私にとってショックだったのは、分かったつもりでいて、分かっていなかったこと、想像できるつもりで、できなかったことの多さです。特に、地元の役所や保健所の職員の方々の「心のケア」の必要性については、もっと多くの人に知っていただきたいと思いました。
ボランティアにかかわる方だけでなく、遠く離れた場所にいて「何もできない」と思う方にも、大切なメッセージがこめられている本です。