古今東西の本からこれはという本を選んだ著者の眼力に敬服する。数頁の短編(例:檸檬)から本格的な長編(例:死の刺)まで、21世紀に生きる人間は一度は読んでおきたい、そしてできれば再読したい名著の名著たるポイントを絞って簡潔に教えてくれる。これは是非若い人に読んでもらいたい読書案内だ。同時に若くない人にも、昔読んだ本にこういう読み方があったのかと気づかせてくれ、あるいは全く忘れた本(例えば私にとってヘッセの「車輪の下」)の記憶を蘇らせてくれる。個人的には、村上春樹氏の本として、私の一番好きな「風の歌を聴け」を採り上げ、私が言葉でうまく言い表せなかった魅力を代弁してくれるのが嬉しい。また、川端康成氏が著者の作品の傾向に近い本「片腕」を書いていたとは驚きであった。
著者自身がこれらの本といかに心を響き合わせて何をくみ取ったか、特に再読することによってどのような新しい発見があったかを語るので、著者の文学的感性とその形成・発展史もわかる。著者のファンにとって本書は必読だ。選ばれた52冊は春、夏、秋、冬それぞれの読書案内に区分されているが、O.ヘンリの「賢者の贈りもの」が冬というようにぴったりのものもあれば、そうでないのもあるので、好きな所から読み始めればいいだろう。
ラジオ番組から構成された本なので、巻末に「放送曲一覧」がある。本の内容に即した選曲も見事。選ばれた曲をBGMに本書収録作を読めば極上の時間を過ごせるだろう。是非続編を望む。