訳者あとがきにみるとおり、「心」と「身体」を二つに分けず、同じ有機体の二側面としてとらえるアプローチの仕方は、アメリカの心理療法においてかなりメジャーになっている。
マインドフルネス、フォーカシング、ハコミセラピー、プロセス指向心理学など、臨床に適用されているそれらの発達は目覚しい。
本書では、「ソマティック・エクスペリエンス」という耳慣れない手法を紹介しているが、風変わりで新奇なものではなく、いい意味で上記の技法の伝統と成果を踏まえ、理論化、手法化したものとの印象を受けた。
特徴的なのは、タイトルにあるように、そうした技法の焦点を「トラウマ」にあて、「トラウマ」を身体経験と不可分のものとして分析しているところだろう。
あくまでトラウマには専門家の援助が大切と主張しながらも、一般の読者が実践し役立てる事のできるエクササイズが紹介されている。
身体感覚(フェルトセンス)を分析、判断するのではなく、ただ「観察する」「気づく」だけであるのが大事だという。
そして、治療の際に、トラウマそのものに焦点を当てた場合、新たな感情的なショックを引き起こす可能性があり、それは見たものを石に変えるメデューサの首と直面するようなものであるという。トラウマを「成長の可能性」「蓄積されたエネルギー」として肯定的にとらえ、身体感覚のほうに治療プロセスの焦点を当てる事によって、「メデューサの視線から身を守る盾」とする事ができるという説明は、優しく、納得のいくものだった。
また、紹介されたエクササイズが、ヴィパッサナー瞑想法における「ボディスキャン」と近似することもとても興味深い。
著者の「癒しのプロセスは、劇的でなければないほど、またゆっくりと起これば起こるほどより効果的である」という言葉にも励まされる。
発見した技法の成果を、あくまで臨床に還元しようとするアメリカの心理学界の姿勢も評価したい。
本書を読んで、人間が、決して頭だけで生きているのではないという実感が深まった。
インターネット社会においては「電脳」という言葉に示されるように、「身体」の存在を置き去りにしがちだ。その時代において、こうした「身体」を含めた総体の復権の流れは、ますます重要さをましてくるものだと思われる。