江戸中期という時代は、初期と幕末に挟まれて、目立った戦乱もなく、ある意味では「成熟」した、また別のことばでいえば「地味」な時代である。そんな時代を描き出すには、歴史家としての力量が問われると言えよう。本書では、噴火、地震、津波、飢饉、疫病といった災害と、幕府の統治システムと力をつけてきた民衆との緊張関係という二つの観点から、生き生きとした叙述を目指している。
精緻を極めた江戸システムだが、領土を増やせないことからその限界に達し、また災害という課題、力をつけた民衆とのせめぎあいをいかに幕府が乗り越えていったかを描き出す。改革や百姓一揆、そして成熟した都市や出版文化、家族制度での老人子供へのまなざしなど、そのインタラクションの中に、当時の人々の「生きる力」をひしひしと感じることができる。
単なる「支配者-被支配者」という見方や、発展段階史観からはとらえきれない構造を描き出した一冊だ。成熟した官民はこの時期をくぐりぬけていくが、いよいよ幕末の内外の課題に直面したちき、力をつけた官民はどう対処するか、日本史上有数のハイライトはもう目前だ。