数学に殆ど縁がない人を対象にした本です。逆にこういう本は難しいと思います。厳密に過ぎれば読んでもらえず、初歩的に過ぎれば説明がまだらっこしいと言われてしまいます。
ところどころ説明に間違いがあります。著者は大学で応用数学を専攻したようですが、基礎理論は習わなかったのか、あるいは忘れてしまったかでしょう。初心者はちょっとしたことで躓きやすいものです。真剣な人ほど一字一句の意味を理解しようとします。そして理解できないのは自分に能力がないからと考えがちです。その意味で誤解を招く表現が多いのが気になります。
例を挙げます。
ページ26から27。「このように小さく区切っていくことを微分といいます。」、「アナログの音楽を微分すればデジタルの音楽CDになります。」、「積分は、微分の反対にデジタルをくっつけてアナログにするものです。」
微分の定義が間違いです。微分とは、ある量がある微小量だけ変化したとき他の量がどれほど変化するかです。デジタルとアナログの関係と微分と積分の関係を混同しています。微分も積分も一般的には連続した値、アナログ量です。
ページ34。「(コンピュータは)たて軸の数字と横軸の数字の関係が式で表されていないと線を引けない」
解析解が出せないと言っているのでしょうか。関係が解析関数で表されていなくても人間がする以上の精度で線を引けます。
ページ44。「この曲線さえあれば積分できます」
もとのガタガタの線でも積分できます。滑らかな曲線でないと厳密な意味での微分はできません(数値微分は可能)が、積分は階段状のグラフであろうと、あるいは線が途切れていたとしても、可能です。
ページ45。「コンピュータがたて軸と横軸の関係をうまく式で表し、グラフを書き、しかも積分までやってくれます。」
ページ34の記述と矛盾します。あるいは、著者は式で表すから積分できると考えているのでしょうか。式で表すのもグラフを描くのも積分するのも独立した動作です。
ページ56。「数学の世界では、このように複雑でごちゃごちゃしたものを、すっきりとして単純なものに変えることを正規化といいます。」
正規化の意味を勘違いしています。たとえば統計学なら、データの値から平均値を引いてさらに平均値で割って、平均値がゼロ、標準偏差が1となるようにすることを言います。
ところどころ説明に間違いがありますが、この本は微分や積分を理解することでなく、親しむことを目的としたものでしょう。理解できないところがあったとしたら、読者はひょっとして説明が間違い、あるいは不十分かもしれないと思って読み進むと良いと思います。
なお、他のレビューで指摘されていましたが、集合の説明は特に間違いを発見できませんでした。コラム2の「BがAの条件」あるいは「なんらかの特徴を持ったものの集まり」のことでしょうか。前者は少し変ですし、後者は単に「ものの集まり」が良いと思いますが、間違いとまでは言いきれません。
星三つは甘いかもしれませんが、他に同じ内容で初心者向きの本がありません。目的を考えればこれで十分かもしれません。とは言え、トヨタその他の企業が微分や積分を経営に活用したから大成功した云々は、いかにも経営コンサルタントっぽくて、ちょっと言いすぎです。微分や積分を知っていると経済学やマーケティングの理論が分かりやすいと言える程度です。