中島哲学において自由論は時間論と並んで重要な位置を占める。『時間と自由』(講談社学術文庫)などのアカデミックな著作にも見られるとおり、その議論は透徹しており極めてレベルが高い。本書はそんな中島の自由論を「後悔」という感情をキーワードにして分かりやすく解説した哲学入門書である。
われわれはみな過去における自分の行為を後悔する(「後悔という感情がなかったならば過去は形成されないだろう」とまで中島は言っている)。いくら後悔したところで、今さらどうにもならないことは分かりきっているにもかかわらず。なぜか。そうしないこともできたはずだからだ。すなわち自分は過去において自由であったはずだからだ。このように自由とはまず過去形である。しかしその自由とは、責任追及の欲求に基づくフィクションに過ぎないのではないだろうか――。
「感情に基づいて世界は形成される」というコンセプトは中島哲学を貫いているが、それが最もよくあらわれているのが本書であろう。豊富な哲学的知識とエッセイストとしての巧みな話術が融合した、詩情あふれる魅力的な哲学入門書に仕上がっている。毒舌で名を馳せている中島の「優しさ」が珍しく感じられる名著といえよう。文庫化に伴いより多くの読者に読まれることを望む。