『私は、夫の顔色をうかがったり、浮気の心配をしたりしながら老いていきたくない。自分の人生は自分で決めたいのです。わかりますか?』
『ただそれだけのために国家を手に入れたいのですか?』
『いけなくて?』
海洋国家ドラヴィアの名門貴族の娘マリア・コントラーリは13歳。コントラーリ家は海運業を営んでおり、彼女は三人の兄達と同じく貿易を任されているが、幸か不幸か彼女の才覚と野心は三人の兄を遥かに上回っていた。だが、彼女はいずれ結婚させられ事業から手を引かなければならない。そんな「女はなにも手にできない」現状を打破するには自分がこの国を手中に収めるしかないと考えたマリアは、野望に向けて動き出す。
……なんだか、「征服娘。」という茶化したタイトルからは想像のつかないシリアスな物語。己の野望の為、マリアが策略を進める上で多様な味方を得ていく様が描かれていく。男尊女卑社会における女性の自立を描いた物語という意味では同じ作者の「大正野球娘。」とテーマは通ずる。だが、そんな小難しく考えなくともこの物語は楽しめる。
表向きは可憐な貴族のお嬢様を演じながらも、策略を練り野望に一歩ずつ近づいていくマリアはとても魅力的だ。一見冷酷なワガママ娘に思えるマリアだが、世間から不当に受ける評価や待遇(差別)に甘んじなければならないことが許せず、そんな境遇にある人を見ると我が事のように憤りを感じる真っ直ぐな気性の人物として描かれており、好感が持てる。
とはいえ、マリアの野望をうっすら感づいた父親に釘を刺さされた後『殺しましょう』と冷酷に呟く場面なんかに一番ゾクゾクしたのだが。
もちろん、この壮大な物語が一冊で終わるはずがなく、一つのクライマックスを迎えた所で以下続巻となる。早く続きが読みたいものだが、今だに続巻が出ない「大正野球娘。」のこともあるし、ひょっとしてかなりの遅筆なのかもしれないが。