戦記物といえば、家族愛とか、生きる、というテーマを取り上げるものが多いが
これは戦記物では今までタブー視されていた、生と性を取り上げた異色作である。
戦争といういわば異常な状況の中、特攻隊員の限られた命が貪欲に性を求めるのは
生きている証だったのかもしれない。そしてその貪欲さはむしろ神々しいまで美しい。
神と崇められた特攻隊員が一人の女の前では子供のように弱さを曝け出し、人間臭いドラマを
生み出す。
人間はそんなに偉いもんじゃない、人間ってのはもっと泥臭い。
泥臭い中に真実があり、美が存在する。そんなことをリアルに感じさせられたのは、やはり、男と女の
世界を書き続け第一人者とされる著者が、あえて切り込んだ世界だからだろうか。
冒頭は父の残した断片的な話の謎を筆者が特攻隊の地に旅して次第に解明しくのだが、それにどんどん引き込まれていってしまった。
まるでこの世の出来事ではなく、夢幻の世界で繰り広げられる性描写が切ないほど美しく印象的だった。
今までにない新たなジャンルの戦記小説が新鮮で面白かった。