厳格な両親を持つ女子大生の浜口美緒は、両親を
説得し、やっとのことでアメリカ旅行の許可を得る。
出発前夜、大学の仲間が開いてくれた壮行会から深夜帰ると、
部屋に髪の毛を詰めたストッキングと見知らぬ女性の死体が!
待望していた渡米がふいになることを恐れた美緒は、
自分に気がある同級生に、死体の遺棄を強要する。
翌日、死体は発見されるが、それから数日経っても身元不明
のまま。さらに、事件の夜を境に、別の同級生も失踪し……。
作中で、ある人が〈被害者の身元が判らない、ということは、容疑者が誰なのかも
まったく見当がつかない〉という、常識的な見解を提示するのですが、これが本作
のトリックを読み解く上でのカギになります。
要するに本作には、警察の科学捜査が介入しても被害者を身元不明の
ままにとどめておける、巧妙な状況設定が施されているというわけです。
また、現場にあったストッキングに詰められた髪にも、その見た目通り、随分と生臭い
意図が込められているのですが、その意図を超え、事件の様相を複雑化させる役割
を果たしているというのが秀逸です。
ところで、本作の中盤には、本筋の事件とは別に、美緒の父親と仕事上の付き合いの
ある青年の財布が消失するエピソードが挿入されており、そこだけを安楽椅子探偵もの
として楽しむこともできます。
ただ、そこで導き出される真相は、本筋の事件と直接的な繋がりこそないものの、
一つの遠因であったとは言うことができ、なんとも苦くやるせない余韻を残します。