洲之内徹の評伝として書名が高かったが、単行本が手に入りにくくなっていたものの文庫化である。『気まぐれ美術館』シリーズの著者としてのイメージをこの本に探ろうとして読むと、戸惑うかもしれない。ここに描かれているのは洲之内の陰の部分が多いからだ。しかも、ちょっと気が滅入るような話が書かれている。戦時下の行動を中心に非情で女好きで自分勝手で…、というイメージが続く。だが、それでは大原富枝は人間洲之内徹をどうとらえていたかというと、その紛れもない個性を認め、愛惜の念を抱いているのだ。洲之内と関わった女性たちをめぐる叙述にも客観的ながら、同性としての思いやりがにじみ出ている。
違う視点から洲之内について述べた関川夏央の解説も良い。美を見る眼の背後に、いかなる人間ドラマがあり、それがいかにしてたぐいまれな美術エッセイへと昇華されていったのか。それを考えるためには、やはり必読書だと言える。