主人公のカメラマン・田代が、顔見知りの人間の失踪を調べていくうちに、日常の裏側で暗躍、跳梁する組織の謀略に巻き込まれていくストーリー。田代が、謎の小太りの男とあちこちで遭遇する出だしから、妙な木箱を追って信州に点在する湖(木崎湖、青木湖、野尻湖、諏訪湖)を訪ね歩く序盤の展開が面白く、ぐいぐいと話の中に引きずり込まれました。別件かと思われたふたつの失踪事件の線が、やがてひとつに収斂するあたりの展開も巧くて、読ませます。
前半のバツグンの面白さに比べると、後半は話の勢いがやや落ちるなと思いましたが、それでも一気読みに走ってしまった。久しぶりに手にとった清張作品でしたが、旅客機内の運命の出会いを描いた冒頭から、急流を運ばれて行くようなスリリングな読みごたえを堪能させられました。
初出・刊行年は、1961年(昭和36年)。『眼の壁』『ゼロの焦点』『黒い画集』『霧の旗』『砂の器』といった名作・力作が並ぶ、清張初期のサスペンス長篇。創作力がひとつの頂点に達した著者の当時の作品では、ノンフィクション『日本の黒い霧』(1960年)もおすすめ。