徳川幕府の体制が十分に強固だった18世紀末。朝廷を中心とした政治体制への回帰を夢見て、実際に行動を起こした高山彦九郎。
固い信念を持って意義ある仕事をしたが、世間では必ずしも正しく理解されていない、といった類の人物を吉村昭は好んで描く。
吉村昭は、彦九郎が太平洋戦争前は尊王論者として広く知られたにもかかわらず、終戦後は一転して狂信的尊王論者として軽蔑の対象にすらなったと指摘したうえで、「かれの戦前、戦後の虚像を排し、その実像をあきらかにしようと考え・・小説を書いた」と語っている。(「『彦九郎山河』を書いて」(エッセイ集『白い道』所収))
本書で描かれる彦九郎は、日本中を北から南まで旅して歩く。水戸、米沢、津軽、そして大飢饉直後の南部藩領を回り道をしてまで歩きまわる。さらには京の都から九州へ。
読み終えて、高山彦九郎という人物とともに江戸時代の日本各地を旅した、そんな心持ちもするような一冊だった。