ぶわっとあふれるエネルギーがすばらしいんです。フォルテがどんどん湧いてきます。元から美声だけでなく声量の凄いシンガーであることは知られていますが、それをよく実感しました(しかもその年齢を慮ると更に驚きます)。確かにそれでバランスが不安定な音程もあるのですが、それをもろともしない迫真の歌力が圧倒的に説得力を作り、うたの世界にひきこみます。声の大きな力に感動する弾き語りライヴアルバムです。
でもよくある若手がただ大声でがなり倒してるだけなのとは違いますね。節回しの随所に見せる悲哀が実に味わい深く、その詩とも相まって非常に知的なカタルシスを我々も得ます。この辺りヴォーカリストとはどんな状態でもことばの彩りを操れる者を指すのだと惚れ惚れしました。勿論そこには響きの深い陽水の発声も大きく起因しています(“上海”のa母音を伸ばす音色の優雅さ等)。
そんな発声面も含め、プロアマ問わず若手ミュージシャンにとっては“井上陽水”とはステージ上でどんな表現力をみせるのか、よく勉強できる素材だと思いました。大変な名曲14「人生が二度あれば」も収録していますし、それを歌詞カードに記載されたコード進行をみながら演奏すれば、そのとき当にうた表現における深みについて発見が多くなる作品だと思えます。
一方、声を張らない9「ゼンマイじかけのカブト虫」、11「いつのまにか少女は」、13「夏まつり」など寂しさの行間を歌う曲達は最も聴き所でしょう。吸い込まれるような陽水の久遠の響きは詩のこころを映しこみ、それは何か遠い日へ続くような鳴りをしているのです。12「心もよう」のサビも記憶を焼き付けるように子音をたてて歌ったかつてのフォルテではなく、少しテンポを落とし抑制的に歌うことで過ぎ去った記憶の余韻を感じ、微妙な変化をみるようです。
いずれも、BGMにしては重いであろう、リアルで迫真の一曲一曲がつまっています。