私とほぼ同年配に当たる著者の神谷秀樹(みたにひでき)氏とは、全く面識はない。だが、一度は話を聴いてみたい人物の一人である。それに比べ、ワイドショーなどでガラパゴス化したセオリーを振りまき、「未だ『過去のアメリカ』を追いかけているようにさえ見える」(本書p.206)元大臣様や、本気か冗談かは分からぬが、この男を「いっそ新党の党首になっては?」(6/20)とヨイショする提灯持ちのエコノミスト(?)らには、正直、開いた口が塞がらず、神谷氏の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい気持だ。
さて、この新書は刊行されたのが08年10月であり、バラク・オバマ氏に対する期待感も表掲している。しかし、結局のところ、オバマ大統領はブッシュ前政権による「焦土作戦」の影響等もあって、たとえばローレンス・サマーズのような男を国家経済会議(NEC)の委員長に就任させている。この男は、ロバート・ルービンらと共に、商業銀行業務と投資銀行業務の分離を定めたグラス・スティーガル法を骨抜きにするなど、ウォール街の腐敗を進行させた戦犯の一人であり、まだまだオバマ政権への予断は禁物だ。
そうした執筆時点での制約を割り引いても、1984年以降、ウォール街で投資銀行家として生きてきた著者の一言一句は重たいし、何よりも説得力がある。神谷氏は「私はウォール街で働いてはいるが、ウォール街的な考え方をそのまま日本に持ち込むこと」を批判し、日本人は“モノ作り”の伝統を失わずに、「日本人の心で感じ、自らの頭で考え、自分たちに相応しい金融システムを構築すべきである」(p.72)と断言する。氏の「金融マンは実業を営む方たちの脇役に徹するべきだ」(p.15)という信条にエールを送りたい。