メキシコのノーベル文学賞詩人オクタビオ・パスの詩論です。
本書は、日本におけるスペイン文化圏文学翻訳の第一人者であられる牛島信明さんの訳で、1980年に国書刊行会の「ラテンアメリカ文学叢書」から刊行された単行本を文庫化したものです。
その単行本は値が張って入手が困難、仕方なしに図書館で借りたはいいが貸出期間中にはなかなか読みきれないし、素晴らしい本なのでやはりできれば手元に置きたいいい・・と身悶えしていた矢先の、個人的に待望の文庫化でした(バッチリ発売日をチェックして当日に購入しましたとも)。岩波さんありがとう!!続編『泥の子どもたち』もぜひお願いします!!
さて本書の大きい目次としては、「序論」「詩」「詩的啓示」「詩と歴史」「エピローグ」「補遺」となっています。
巻末には、解説として牛島さんによる「オクタビオ・パスについて」、松浦寿輝さんの「大いなる一元論」、補論として山口昌男さんの「オクタビオ・パスと文化記号論」が収録されており、パスに詳しくない読者にも親切なつくりになっています。私はパスについては著書をちょろっと読んだ程度&辞書に載っている程度の基本情報しか把握していなかったので、先に解説を読みました。
パスは、内乱中のスペインにて、チリの革命詩人ネルーダらと反ファシスト作家会議に参加したり、メキシコ政府の過酷な反体制派の学生デモへの弾圧・虐殺に抗議し、インド大使の職を擲つ等の行動が示しているように、人間的な気高い心の持ち主です。
彼の詩論が詩を「二つの異質なものを止揚・仲介するもの」であるとし、「自分と他者を結びつけ補完する機能を持つもの」であるとする、非常にポジティヴで健康的なものである由縁は、彼がこの散文的な空気に満ちた現実世界の只中で「戦う」詩人であるからなのだと思います。やはり現代の戦う詩人である私の恩師も、「詩心は、宇宙と社会と人間を繋ぐ心である」とおっしゃっていました。
高い知性や才能だけでは、不信や悲観主義で武装した巨人ゴリアテには歯が立ちません。小さき勇者ダヴィデである戦う詩人の武器は、人間への強固な信頼を根に持つ楽観主義という、勇気ある者だけに許された、尽きることなき希望の石なのです。また、「世界を変えうる作用としての詩的行為は、本質的に革命的なもの」という言葉にも非常に共感しました。その通りです、詩人とは、磨き鍛え抜かれた言葉を武器とする使命高き革命家なのです。
そして、パスは西洋から東洋の思想まで大変に幅広く渉猟しそれらを統合した詩人ですが、彼の詩論が仏教、中でも釈尊最晩年の教えである法華経の精髄「縁起論」「十界論」等と酷似していることに非常な驚きを感じました。私は仏教徒ですので、余りの一致に始終「そう、そう!」と頷きながら本書を読み進めていました。
買って良かったあ〜。諸々凄く励まされました。
本書の内容については、単行本の方のレヴュアーさんたちが非常に参考になる素晴らしいレヴューを書いておられますので、そちらもぜひご覧ください!