高校時代、現国の教師が薦めていたので買ってはみたものの、読んでみると何がなにやらさっぱりで、以来最近に至るまで一度も開くことがなかったが、読んでみればとても素晴らしい1冊だった。
他のレビュアーさんが言っている通り、毛沢東・レーニン・スターリンといった社会主義国の首脳の名前がたびたび引用され、内容自体もエンゲルスによる科学的弁証法を下敷きにしているようだが、その独特な社会発展の法則への確信を割り引いておけば、今目の前にある出来事について考えるための強力な分析用具を得ることが出来る。
構成は、1章に序論、2章にカントを経たヘーゲルの弁証法からフォイエルバッハを経てマルクスへ、そしてエンゲルスへと至って科学的弁証法が形作られるまでの歴史を概観する。前から思っていたが、マルクスは根っからの研究者、エンゲルスが理論家であり宣伝者でもありマルクス主義の創始者、という位置付けは共通前提のようだ。
第3章からが科学的弁証法の中身の解説だが、その「『対立物の相互浸透』とはどういうことか」のセクションが130ページ弱に渉り、本書の核となっている。「全てはつながっていると同時につながっていない」、「全ては媒介され、かつ直接性を含んでいる」「他者に関わっていけば世界が二重化されると共に自分も二重化されていく」「人間と自然(環境)、人間と人間は相互浸透していく」など、手探りでいろいろ考えたり感じていた断片的な印象や観照がここで一貫した推論として展開されていることに驚いた。
第4章は「量質転換」、量の変化が質的変化を引き起こし、質の変化が量的変化の引き金になるということ、第5章は「否定の否定」、真のポジティヴさに至る為にネガティヴなことを考え抜き、表現した上でそのネガティヴさを乗り越えて鮮明なポジティヴさを描き出す戦略、第6章は矛盾、世界は過程の複合体であり、だから矛盾の複合体でもあるということが論じられる。
歴史的必然としての共産主義社会の到来など信じられないことだが、ここにある知見は時の流れとともに葬ってしまうには余りにも惜しい。歴史的に類を見ないほどの豊かさの渦中に語られたために今や見放されたかのような社会主義思想も、2000年代後半では格段に現実味を帯び、理解も容易になっている。少なくとも現実把握の方法として、またありえるもう一つの社会、プラスワンではなくオルタナティヴとしての社会を構想する技術として強力な助けになると思う。