建築において「持続する」と言う時にユーザーの存在を忘れてはならないことを本書は改めて肝に銘じさせてくれる。特に四層構造と言われるものの四層目が果たす役割において建築を扱う主体であるユーザー、施主が建築とどのように関われるよう仕組みを考えるか?
本書を読むと箱の家が秘めている原理の奥深さを感じさせる。同時に、箱の家に対して持つ違和感を増幅もさせてくれる。
四層構造とは本書の文章から抜出すと以下のようになる。
1.第一層は建築の物理的側面である。この層は建築を物理的なモノとして捉える視点である。
2.第二層は建築のエネルギー的な側面である。この層は、建築をエネルギーの制御装置として捉える視点である。エネルギー性は物理性とは独立して扱うことができる。
3.第三層は建築の機能的な側面である。この層は、建築を社会的な機能を果たす存在として捉える視点である。機能は人の流れ、部屋の広さ、用途と言った人間活動に関係し、物理性やエネルギー性とは独立して扱う事が出来る。
4.第四層は建築の記号的側面である。この層は、建築を文化的意味や価値を担う記号として捉える視点である。建築の記号性は他の三層とは独立して扱うことができる。
p.150
通常、第三層までの視点でサスティナブルな建築像というのは描かれることが多いが、実際にその物理的な性能限界で消費される状況以上に、文化的・社会的な性能の限界によって消費されることが現実の建物では多い。持続ということを考える上で四層目が非常に重要な役割を果たして来ることが分かってくる。同時に、第三層までの要素は第四層からの関わり方次第で、その特性が変化する可能性を秘めていることが分かってくる。感覚としては、建築を第三層までは食品における「消費期限」を扱っているのに対して、第四層が加わることで「賞味期限」を扱えう方向性が見えてくる。賞味期限とは非常に文化的な概念である。例えば刺身の賞味期限とは、一般的な人間がその食品を「刺身」としておいしく頂けるための期限であり、ある人間にとってはそれ以前かもしれないし、それ以後かもしれない、また炒め物にすれば期限は伸びるかもしれない、賞味期限とはそのような一つの文化的な定規であり、その定規があることで私たちは食品に対してより安心して、より自由に介入をすることが可能となる。
モジュールやパターンの問題は、まさに賞味期限のような一つの定規を建築において達成したものの代表例として挙げられている。人は秩序によって制限されること以上に秩序によって自由を得ることが出来る。それは「天によって人生が決められていることを悟ることによって、私は自由になる」なんて昔の人が言った言葉にも通じるように思えるし、現代音楽において身体がある固定化されたパターンに陥るのを楽譜がそこから自由にすることを目的としたことにも通じるように思える。
さらに、ベイトソンの影を散ら付かせながら文化的意味が作り出すパターン、秩序は相互に影響を及ぼしあいながら変形していくことを示唆する。ワン・ルームの居室空間が作るポジティブ・フィードバックとしての特性は建築自身が持つ秩序をユーザーの介入によって変形・進化させられることを示唆すると同時に、建築自身が持つ秩序によってユーザーの持っている秩序も変形・進化させられることを示唆している。
ポジティブ・フィードバックのエネルギーの源泉は「矛盾」である。そこにある「矛盾」が堪え難いほどの重みをもつことによって、それをどうにかしようと現状の構造が持つ相を新たな相へとシフトさせる。矛盾は第三層までの物理的特性と第四層の記号的特性の関係によって生まれる。持続的な建築とは常に「矛盾」を内包する建築であると思われる。矛盾を持たない建築とはミイラのように永遠性を手に入れた持続とは正反対の性質を持つものになるように思われる。