この本には、庄内を愛するあまり「地方再生」「地産地消」の革命を起こした「農」に関わる多くの天才たちが登場している。シェフの奥田政行さんは「庄内を元気にしたい」という強い思いからイタリアン・レストランを郷里、鶴岡に開店。繊細な絶対味覚をもつプロの料理人である。食材を求め、食の道を修行僧のように突き進む様子は、あのイチローの姿とダブってしまう。奥田さんを農業、漁業の立場で支える多くの生産者の方々。庄内の在来野菜の研究者で、彼のよきアドバイザーである江頭宏昌先生。「庄内の農のカリスマ」といわれる山澤清さん等など……。庄内を愛する気持ちは同じだが、登場人物の顔ぶれは多彩である。
地場野菜は、何千万年、億年かかって進化してきた品種の山菜や野菜だから、人間が100年かそこらで改良してきたものとは訳が違うのだという。ここ数十年間に日本中の農産物は画一化されてきたが、庄内には豊富な地場野菜が奇跡的に残った。それは、効率重視とはまったくちがう目線、時間と手間ばかりかかる方法によってもたらされてきた。美味しいものを求める庄内人気質、郷土を愛する情熱、植物を愛でる心などの様々な偶然と必然が重なった結果なのだ。こうした取り組みから生まれる美味しい料理は、今では日本の各地方で、また世界中の都市でも受け入れられている。
庄内の食べ物は大人の上品な味わいを持つ。私事になるが、それに気づかされたのは、この夏、十何年ぶりに父の郷里、庄内で味わった家庭の手料理だった。地場の筍ご飯やミズやウルイの浅漬け、山菜の煮浸しなどがなんとも心地よい美味しさだった。手をかけ大事に育てられた地場野菜が、家庭でも丁寧に調理され、今なお健在である。子どもの頃には分からなかった味だった。
一筋縄ではいかない地方再生への取り組みが、とてもわかりやすく、感動的に描かれ、なぜそれが庄内で可能だったのかを納得させる秀逸な本である。