2007年夏に、東京芸術大学美術館で120点あまりの『名所江戸百景』の全作品を鑑賞して以来、広重の残したこの作品群に魅せられています。
筆者であり、コレクションの所有者の望月 義也氏は、2006年より『名所江戸百景』の収集を初め、初摺17景を含む全景を所有している方です。その経緯については、まえがきにかえてで述べられていますが、初摺17景と言うのが素晴らしいですね。本書掲載の作品の美しさはその保存状態の良さと初摺の多さによるものでしょう。
128ページからは各作品1つずつの解説があり、後半にはティモシー・マクサマウ氏による本書の英訳が記されていますので、外国の方で広重ファンへのプレゼントには最適でしょう。
画家の岩本拓郎氏による「ゴッホと『名所江戸百景』」は比較的知られている話です。「亀戸梅屋敷」「大はしあたけの夕立」の作品をゴッホが模写したことによって、ヨーロッパでも広重の一連の作品群はより有名になりましたが、どちらも見事な作品です。
「深川洲崎十万坪」の大胆な構図などは、広重の面目躍如といった作品ですし、「両国花火」「猿わか町よるの景」「浅草金龍山」にもあらためて魅了されました。
「玉川堤の花」「日本橋雪晴」「増上寺搭赤羽根」「水道橋駿河台」などは、150年前の江戸がそこに存在しているわけですから、興味深い事柄だと思いました。美術史だけでなく社会史や風俗史の観点からも興味深い作品群だと思います。
ヨーロッパから輸入されたベロ藍(ベルリンブルー)の美しさがそれぞれの作品から伝わってくるような印刷の仕上がりでした。日本の生んだ偉大な絵師広重の『名所江戸百景』を鑑賞する際の手引書として使い勝手の良い本だと思います。