広田弘毅と言えば小説『
落日燃ゆ』の残像が強い。
自分も『落日燃ゆ』の清冽で透明な人物像に違和感を覚えながら、
大きな影響を受けていたことは間違いない。
その幻想を、現存する資料から再点検しているのが本書。
本書のおかげで、透明で実体の無い影絵が
ようやく血肉を持った人間として見えてきたような気がする。
だが、結んだその人間像は予想外に平凡。
彼は優れた為政者でも傑出した外交官でもなく、
現代にもいるようなごく普通の政治家だった。
底の無い善人ではなく、だからと言って倫理に反する人でもない。
自ら道を切り拓いていく先駆者としては部下に仕事を流しすぎる。
後進を育て導く指導者にしては情熱に欠ける。
穏健な平和主義者であることは間違いないが、
裏を返せば優しすぎて自分の意思を通しきれないとも言える。
ややもすると壁に当たったときに情熱をなくし、
その場の流れに巻かれてしまう弱さもある。
確かに“その時”に自分の意思を貫くことは難しい。
けれど、それでもだ。
だからこそ、運命の分岐点で熱意を失い、
大勢に迎合してしまうその姿がもどかしく哀しい。
本当は、この人を憐れんではいけない。
次の戦争を起こさないためにも、
公人・広田弘毅の執政は過去の失敗として断ずるべきだ。
しかし、この人が極刑に値するほどの罪を犯したとは思えない。
私人としてならば、俺はやはりその死を悼みたいと感じている。
感想はまとまらないが、『落日燃ゆ』に好感でも反感でも
何らかの感情を持ったなら読むべき一冊です。