物語全体に漂う、心地の良い静謐さ、しっとり香る品の良さ。
波津さん和風作品の大部分で味わえるその情緒は、この本にも色濃ゆく出ています。
不可思議なものを見、聴き、感じ取れる青年「秋月 青之助」を軸として、紡がれていく「幽霊宿の主人」。
一話一話が独立した短編なので、話自体はあっさりと読めます。ただ…奥が深い。
時に、やわらかくあたたかく。時に、憎悪を籠めるように。
とても丁寧で、細やかな人間描写が素晴らしいです。
愛と、情と、不思議の詰まった人間とあやかしのドラマ。
正と負を巧みに含ませ織り込めた、上質のロマンスだと思います。
これは…複雑なのですが、微妙に残念な事に、主人公「青之助」については特筆する程熱烈な恋の話が載っていませんでした。
春の、桜の香りがするような…なめらかな闇を纏った風雅な青年です。綺麗。うっかり本当に惚れてしまいそうな、匂い立つ男ぶりです。