本書は、何度かの再読に充分耐え得る稀有な作品かと思う。5年前にはじめて読んだ時には、オースター初心者であったこともあり、その面白さがよくわからなかった。その後、ニューヨーク三部作以降の作品をランダムに読んできて、もう一度本書に戻ってきた。いい、非常にいい。
中篇なので、直接読んで頂いてそのプロット展開の妙味を味わって頂くしかないが、お薦めの一品である。
脂の乗り切った翻訳家柴田元幸の訳文もいいが、あとがきもオースター解説文としては、コンパクトにまとまっていてなかなかいい。柴田センセはオースターのことを「エレガントな前衛作家」と評しているが、考えるということはどういうことなのか、自己自身と対話するということはどういうことなのか、ということをテーマにする作家といっている。「思索の快楽」が彼の文学の大きな魅力なのだ。