非常に端正な文体で綴られる物語は、極めて魅力的だ。また、人物造形の素晴らしさも、相変わらずである。しかし何よりも本作品での魅力は、その映像的、視覚的描写力に尽きるだろう。物語の前半、知られざる名優(?)たるヘクター・マンの出演作品を追い求める「私」が観た数篇の無声映画、そのひとつひとつのリアリズムは如何だ。細部に至るまで極めて緻密に描ききる筆力、そしてそれを完全に映像として描写している著者の壮絶なまでの幻視・・・まさに圧倒的というよりない。
そしてそれは、物語の後半で更なる深みへと突き進む。若きヘクター・マンが浮沈の末に辿り着いた地で、密かに創られた幻の映画・・・文字を読みながらにして、我々は映像を観ることになる。
オースターの最高傑作? 過去の作品との比較に意味はない。過去の作品には過去の作品の素晴らしさがある。そしてこの作品にはこの作品の素晴らしさが。それでいいではないか。