1984年のライブ(ドキュメント)です。マキさんの唯一の公式映像作品と言えるものです。
内容は、マキさんが、近藤等則や後藤次俊をプロデューサーに迎え、最もアクティブに活動されていた80年代の映像作品です。池袋の文芸座と京大西部講堂のライブの断片を編集したもので、コンサートまるごと収録の作品ではありません。またこの手の作品にありがちな、インタヴューとかもありません。あらかじめ準備されて撮った映像というよりも、マキさんの了解の上で(?)勝手にカメラを持ってコンサートに押し入って撮ったという感じもする作品です。これが、結構不思議な感じでおもしろいです。
そんなわけで、以下の凄腕ミュージシャンたちの名演をじっくり観たい方には、少々不満の残る映像作品かもしれません。全体として1時間弱ですので、私ももっと観たかったというのが、偽らざる気持ちです。
でも、楽屋その他で煙草をずっとふかしているマキさんの佇まいがなんとも言えない迫力です。それと楽屋やリハーサルの様子も大変興味深い。
メンバーは、近藤等則(トランペット)、向井滋春(トロンボーン)、本田俊之(アルトサックス、シンセ)、渋谷毅(ピアノ)、川端民生(ベース)、セシル・モンロー(ドラム)、飛田一男(ギター)、後藤次俊(ベース)、つのだひろ(ドラム、ヴォーカル)・・・普通じゃ考えられない豪華なメンツです。特に近藤、本田、向井の3管トリオは強力で見ごたえ十分です。本当に、いかにもマキさんだからこそあり得るバンドです。
しかし、これだけの男衆の中でも、マキさんの放つ存在(オーラ)は他を圧しています。近藤さんのパフォーマンスは確かに笑わせてくれるけど、ちょっと猫背で前のめりで歌うマキさんは全くマイペースで微動だにしません。まるで、つわもの揃いの男たちをすっかり手玉にとって楽しんでいるかのようです。
楽曲の合間に、ステージで時々見せるマキさんの照れくさそうな微笑が、非常に子供っぽくてかわいいです。
それにしても、マキさんの官能的で深い、凄みのある、楽器のような歌声には引き込まれます。
マキさんの歌は聴く人によって、ブルース、ジャズ、ロック、歌謡曲とさまざまなジャンルにとられると思いますが、マキさんの真の凄さは、ビリー・ホリディとか、ちあきなおみの歌のように、いつまでも、人の頭の中に棲みついてしまうところです。まるで、<こころの痛みのかけら>みたいに。
この点で、マキさんの歌は私の中では、<アングラ文化の生んだ代表的歌手>や<いかにもあの時代の人>、<伝説の歌姫>といった通説的な評価とは、永遠に無縁なままの存在であり続けることでしょう。
このDVDは、かしこまって1984年のマキさんとそのバンドのライブを観るというよりも、気楽にかけ流す感じで体験すべきものだと思います。私は映像としてよりも、音楽CDとして聴いています。
それにしても・・・あの<悪場所>京大西部講堂にマキさんほど似合うアーチストがかつて存在しただろうか。