まずこのアルバムを語る上で欠かせないのがジャケットのアートワークではないでしょうか。
うっすらと霞がかった中で無機質なマネキンと共にどこか虚ろな表情で写真に収まる坂本氏。
カラーでもモノクロでもなく、緑がかったフィルターを通した1コマ。
このアルバムの世界観を絶妙に表現した秀逸なジャケットだと思います。
そして、その趣は一曲目に流れる『幽霊の気分で』に如実に現れます。
さて、どこに行こう
何になろう
幽霊の気分で
さて、何をしよう
何になろう
透き通る身体で
“バンド”という肉感的な存在から解脱することによって、
坂本氏が手に入れたのはあらゆら制約からの解放であり、自由だったのではないでしょうか。
ギロ、マラカス、コンガ、ヴィブラスラップ、ハモンドオルガン、フルート、サックスなどを効果的に使い、
とこかカーティス・メイフィールドやマーヴィン・ゲイ辺りの良質なソウルミュージックを聴いているような、
恐ろしくさらっと聴けるアルバムです。
そのくせ、後味はコクがある。
全体的に『ゆらゆら帝国』の代名詞であった肉感的なギターサウンドや
濃密かつサイケデリックな空気感は希薄になっていますが、
女性コーラスをフィーチャーしつつ、水のあぶく音を盛り込んだ♯5『ずぼんとぼう』のような摩訶不思議な世界観も健在です。
最近の潮流として、こういうさらっとした質感の世界観を表現するに当たって
電子音を前面に押し出すミュージシャンが多いですが、
あえてその手法に走らずここまでの音世界を構築してみせた坂本氏の才能にはやはり敬服せざるを得ません。
そよ風のような自然な爽やかさがありつつ、ほんのりとした温かみを持つ不思議な浮遊感に包まれる。
冷たすぎず、熱すぎず。人肌のような心地良い温度感です。
アルバム一枚、47分があっという間に過ぎ去ってしまいます。
初回盤にはボーカルレスのインスト盤が特典としてついてきますが、これまた素晴らしい。
可能であれば初回盤を買われることをお薦めします。
リビングでコーヒーを片手に本を読みながら、
ドライブで美しい海や山といった風景を眺めながら、
公園のベンチでボーッとタバコを燻らせながら、
街を歩きながら、通勤・通学の電車の中で…
きっとこのアルバムは聴く場所を選ばずにあなたの日常に『すーっ』と静かに寄り添い、
自然に溶け込んでくるに違いありません。
決して饒舌に語ることなく、極々ナチュラルに音楽のある日常の素晴らしさを実感させてくれる。
そんな坂本氏からの素晴らしい贈り物です。
余裕の5つ星。