幸福論がブームである。フランスのサルコジ大統領がGDPを補完する幸福指標の作
成を指示したり、日本でも政府が幸福指標への取り組みを発表した。そんな中、にわか
に注目を浴びているのがブータンのGNH(国民総幸福)である。著者は、以前からH
SM(人間満足度指数)を提唱する幸福論の研究者であり、また、08年に開催された第4
回GNH国際会議に参加するのみならず、会議で論文を発表までしてブータンとは深く
関わっている学者である。
幸福論ブームによってブータンのGNHが注目されたのでGHNが最近の言葉だと思
う人がいるかもしれない。が、GNHは1976年に当時のブータン国王が国際社会に向け
て発信した言葉である。本書では、情緒的なGNH評価に流されることなく、首相や政
府要人とのインタビューを通して、ブータンの憲法や国会の制度にも触れながら、リア
ルなGNHの可能性を描き出している。
多くの日本人にとってのブータンは、かつて日本が経済成長の中で失ってしまった大
切なものを残している理想郷として描きたい欲求に駆られるが、ブータンも文化開放や
民主主義国家への制度改革を進める現実の中にいる。リーダーの育成では日本をしのい
でいる面もある。本書は、そのようなリアリティを詳細に描きながら、それでもなお
ブータンに対する尊敬と憧れを残してくれる。
理想化されず、等身大かつ斬新なブータン論である。ブータンを語る者が知っておく
べき事実が網羅された良書である。