中国・インドの両大国に挟まれ、ヒマラヤ山脈の東に位置する小国ブータンについては、これまで日本と似た民族衣装や、世界最初の禁煙国家、また、2008年に初めて普通選挙が実施され立憲君主制に移行したことなど、断片的な情報が伝わってくるに過ぎなかった。本書は、そのブータン王国が提起するGNPに代わる概念GNH(国民総幸福)の実態を報告するルポである。
小規模水力発電による電力を隣国インドに輸出して外貨を稼いでいる農業国ブータンは、決して物質的に豊かな国とはいえないが、開発によってもたらされるひずみを恐れて近代化を急ぐことがない。それでも、国王はコテージに暮らしホームレスもいないなど貧富の格差は少なく、教育・医療は無料などヨーロッパ並みの福祉を実現している。そして、仏教思想に基づき、乱開発を戒めて豊かな森林資源を守り続ける姿は、「21世紀の国のあり方」を示唆しているとさえ思われる。このように、本書は読めば読むほど、「こんな国が地上にあったのか!」と、新たな発見と驚きの連続である。
そうした意味で、「ブータン入門書」としては格好の書物ではあるが、全体的に取材量や統計資料等の情報が少ない感が否めない(例えば、教育に触れながら、大学があるのかどうかも記述がない)。また、南部地方におけるネパール系住民との対立・紛争の歴史などにも一切言及していないなど、問題点に一切触れていない点は、一定割り引いて読む必要があるだろう。