町の中にはいくつもの運河が流れ、街を出れば見渡す限りの農地と運河が広がる、世界で最も特徴的な国土を持つオランダ。一人当たりGDPは日本人よりはるかに多いし、サッカーの強さは前回ワールドカップで日本人はよく知っている。フェルメールもオランダ出身だ。本書に書かれていないが、ノーベル賞受賞者も日本人より多い。そして、400年前に「日の沈まない帝国」スペインから独立して以降、せっせと水を掻き出しては自分たちの住む土地を作り続けた。世界の海の主役でもあり、鎖国の日本国内に唯一、世界の最新情報を日本に提供し続けた。有り体に言って本書は、「400年たっても日本はまだオランダに学ぶべきである」と訴える本だ。世界で最も水害と戦い続け、農業でも世界最先端を走る国、オランダに3.11後を生きる智慧があるのではないか、と問う。
オランダ式運営システム「ポルダーモデル」について、本書の一番のキモであるにもかかわらず、著者は「こうだ」とはっきり説明してくれない。だが、私の理解したイメージでは、「将来は不確実でどうしようもないが、その中でどうするか自分で決める自由はある。メンバー全員が考え話し合い、協力して行動する」という感じ。オランダ人ヨハン・クライフが率いたバルササッカーも、フィールドをポジションではなくスペースから考えるトータルフットボールで世界のサッカー戦術を変えてしまった。なぜ、江戸幕府がオランダをビジネス相手に選んだのかの分析も面白い。17世紀初頭、スペインポルトガルも宗教と貿易はワンセットだったが、日本貿易独占を狙ったオランダだけが、「無宗教ビジネス」を提案して採用された。ちなみにダッチシェルもオイルショック後の原油価格低下を予測し、シェア拡大に成功したという。人生のすべてにおいて神様、王様が絶対だった時代に、ビジネスに宗教を持ち込まず、「無敵艦隊」から独立しようと考えた人たちなら、大災害だって「想定の範囲内」となるのだろう。
全体的な印象として、コンサルタントである著者のビジネス論やソーシャルキャピタル論が多く、回り道になってしまった感は否めない。もっと具体的にオランダの人たち、歴史、産業から「オランダの智慧」を汲み出してほしかった。とはいえエピソードは豊富で、オランダ人のユニークな思考法と、桁外れの進取の精神が分かる本である。