筆者は法学をベースにおく研究者としては自他共に認める「年金の鉄人」であり、社会保障分析を生業とする者ならば誰もが一目置く存在である。マスメディアでは経済学の世界における「年金の鉄人」高山教授を高く持ち上げるが、実は高山氏の「600兆円の債務超過」論は経済学者の世界でも必ずしも評価は高くない。本書はその高山氏の論説を主な矛先に展開されており、高山氏の主張が実は非常に過激で矛盾している部分が多いという指摘にはうなずけるものも多い。また年金純債務600兆の主張についても、多くの経済学者が首を傾げる点を法学者である筆者が小気味よく糾弾している点もおもしろい。
ただし、議論の要所要所で筆者の経済学音痴ぶりが本書の評価を著しく低めている。厚生年金保険料の半分は事業者負担であるから年金はお得な制度であるなど、経済学を少しでも学んだことのある者なら目がテンになるような主張を平然と主張してしまうことが惜しまれる。
いずれにせよ、本書はメディアにあふれている年金批判の多くの誤謬を指摘している点において貴重な一書であり、そのすべての主張を受け入れることはできないが、高山氏のベストセラー本と併読すれば年金問題の論点がかなり整理できるであろう。「法学は制度を運用していくための学問。経済学は制度を構築するための学問。」という言葉があるが、依って立つ学問の性質の差異が同じ問題を取り上げさせても論調が異なることを確認できるはずである。
評価としては、迷うところだが、内容の貴重さと高山氏の本と差をつける理由がないことから四つと判断。