御存じのように近年毎年発行されている、NHK大河ドラマのシナリオを元に構成したノベライズ小説です。少し前のようなハードカバータイプではなく、青年コミックの単行本と同程度の装丁になっていますが、安っぽい印象はあまり受けません。
2012年の大河ドラマの主人公は40年ぶりの平清盛。大河十周年記念作品として製作された「新・平家物語」は、清盛の死後もひと月以上ドラマが続いたように、清盛一人ではなく平家と王朝時代全体の滅亡の美を描いた作品でした。しかし今回は、史上最年少の清盛役者・松山ケンイチを立て、出生と立場に悩む青少年期から争いや身分を超え貿易を通じた海外への雄飛を「信長より400年、龍馬より700年早く夢見た」、時代の開拓者として、清盛の前半生を中心に描く作品が目指されているようです。
じっさい近年の研究では、治承・寿永の内乱は世間で言われる「源平の戦い」などではなく、清盛の蜂起をきっかけにした全国在地領主の朝廷権力への反乱であり、中世は清盛の「福原幕府」の創設に始まるとまで言われるようになっています。
そうした研究成果を盛り込みたいスタッフの期待を受ける脚本家は、藤本有紀さん。
「ちりとてちん」などで、軸のぶれない世界観、個性的で筋の通ったキャラクター、長い時間をかけたドラマの中での人の成長、奇跡的なまでの伏線の緻密さを描く力を評価されている方です。
さてノベライズ化された物語を読むと、意外や第一話の頃に当たる冒頭部分は、あまり冴えを感じません。ありがちな「貴族vs武家」の構図、よくあるドラマのような人物の行動、実名で名乗り合う近年の大河風のセリフ。藤本さん得意の「ドラマ全編を通じて使われそうな小道具」もあまり目立っておらず、話が進んでいっても清盛という屈折した主人公のキャラクターがはっきりしません。
しかし人物のフォーマットが固まってくる中盤になると、俄然それぞれの人物の関わり合いと化学反応が炸裂を始めます。何気ないエピソードが他のキャラを動かし、ピンボールのごとくエピソードがつながっていく。冒頭数話で消える白河院の落とした影が次の世代その次の世代をも狂わせていく展開はまるでバルザック。「瀬をはやみ」「遊びをせんとや」をはじめとする和歌や今様が効果的に使われ、宋剣・宋銭・双六・源氏物語・猫・鸚鵡・水仙などのアイテムが生き生きと意味を持ちはじめる。
ストーリーは佐藤義清(西行)が出家し、皇位継承に激震が走り、清盛が最初の妻を病で失うという、ふつうの「源平合戦」物語では端緒にもならない部分までを収めています。しかしここまでで既に、平清盛が海外雄飛を望む背景、源義朝が関東で東国武士団の旗頭となる経緯、のちの乱に至る朝廷の暗闘がしっかり描かれています。
恋愛劇あり海賊船とのアクションありの詰め込んだ内容ですが、清盛と最初の妻のあいだを西行が取り持つあたり、声を上げて笑ってしまうやり取りに満ちていて、映像になるのを楽しめると同時に読み物として期待にたがわぬものになっていると言ってよいでしょう。
従来の固定化した源平合戦譚のイメージをひっくり返してくれるような後半に向けて、今後とも脚本の藤本さんと、それを支える考証の先生(現在ではすっかりノリまくっておられるとか)をはじめとするスタッフの皆様の、一年間の健闘を祈りたいと思います。