最初に書いておくが、この「新装版」はすでにいくつかある「平行植物」と内容は同じだ。
だから既に本著の過去版を持っている人には無用と言えるだろう。
しかして、もし新たに「平行植物」に触れようとしているなら即買いだし、
古いファンならばコレクターズアイテムとして購入するのもいい。
なにより程よい大きさ(217×138)でしっかりした紙質、少し古臭さを感じさせる字体はいい味を出している本だ。
私は印刷には疎いが、それでもあえてこうした固い装丁デザインをとってるところに工作舎のこだわりが見えて面白い。
巻頭にイラストが納められているが、本著の本体はほとんど文章のみである。
いくつかの章に分かれてとある植物についての研究報告といった形で様々な検証がなされ、
時に伝承や伝聞、註釈のような文体が続くので、それなりの読解力が必要な点だけはご注意を。
また、今回はじめて『幻想の博物誌』という帯コピーが付いたのも、世界がやっと彼の作品に追いついた感がある。
今までは「奇書」と呼ばれていた本著だが、現代においては「仮想世界の存在」はさして珍しい事では無くなっているからだ。
ネットメディアを通じて拡散する「情報」は共有された時点で「人面犬」のような居ないけども居るかのような存在感を手に入れる。
映画・漫画・アニメでは様々な架空の存在や設定が日々造られている。
当時のレオーニにとっては文学界の異端とも言うべき冒険だった本作は現代ではもう「奇書」では無いのかも知れない。
1999年に亡くなった彼が今のネット社会で創作活動してたら・・あまり目立たなかったのかもしれない。
まあ、そんな想像を巡らすほどに本著は時代を先取りしていたのかもと言える。
さて、この作家と本著の内容に関しては旧作のレビューでも見られるのだが・・。
新規にこの本を買おうか悩んでいる諸氏に対しての後押しという意味で少し触れておこう。
レオ・レオーニ(Leo Lionni:1910)はオランダ生まれの絵本作家として知られている。
イタリアに住んでいた頃にはファシスト政権のあおりをくらって(ユダヤ系とみられ)アメリカへの亡命を余儀なくされた。
アメリカでは新聞の美術担当の仕事などをし、この頃に『あおくんときいろちゃん Little Blue and Little Yellow』で絵本作家デビューをする。
後にイタリアに帰り、多くの絵本を手がけると共に、この「平行植物」を記した。
なので、絵本作家・イラストレーターとしての職歴が長い氏にとってこの本は珍しい作品なのだ。
「平行植物」という想像上の存在をなんのきっかけで思いついたのかは知るべくもないが、
彼が絵本で培った子供の想像力という切り込みに強く魅かれていた要素が多いのは想像に難くない。
「言葉」によって夢の存在を浮き上がらせるという手法が彼にこの植物達を書かせたのだろう。
イラスト・文章・伝承・伝聞、冒険譚、ソレらを道具に在りえざる物に命を与えたかったのだろう。
そして、それは成功して・・・東の果ての国で翻訳され人気を得ている。
レオーニもきっと生い茂る平行植物の葉の蔭で喜んでいるに違いない。
そうそう、ちなみにその「和訳」の功績も大きい事を指摘しておこう。
「タダノトッキ」「ユビスマシ」など聞いただけでイメージが想起される語感には脱帽だ。
このセンスある翻訳があってこその本著の日本での人気がある訳だ。
さあ、最後に繰り返そう。
初めて本著に触れるならば買って損はなし、あなたの好奇心をきっと満たすだろう。
古きファンなら本棚に加えても満足できる一品である。