「平成の林子平」による警世の書である。「自ら海に依存しながら海に無関心でいる日本人」に対し、「海洋国家」日本の国民の生命財産を守る海上保安体制が、あまりにも手薄い現状に警告を発した本だ。
日本は、多くの人が日頃は意識していないが、現在の日本人の快適な生活が大きく海に依存していることに無関心のようだ。どうしても「島国」意識が抜けず、関係者以外は「海洋国家」意識をもちにくいのだろうか。
何といっても「食糧とエネルギー」のほとんどを大きく海外からの輸入に依存しているが、金額ベースでみて約7割が「海上輸送」に依存している。海上運賃は航空運賃よりはるかに安いので数量ベースでみたら、比率はもっと高くなることはいうまでもない。
通商の舞台となり、富をもたらす存在である海は、また災難をもたらす存在でもある。
著者は、日本の国土面積が世界61位であるにかかわらず、領海・排他的経済水域(EEZ)の面積は世界第6位、そして海岸線の長さも世界第6位であるが、国土の面積あたりの海岸線延長ではなんと世界一であることを強調している。これだけ長い海岸線を、これだけ広い領海・排他的経済水域を、なんと韓国と同じ人数の海上保安庁職員で守っているというのだから、驚きを超えて、ため息をつきたくなってしまう。
著者は、専門の中国問題を大きく超えて、日本を取り巻く海にかかわるトピックを具体的に取り上げている。いずれの章においても、非常に行き届いた精力的な取材と、それに基づいた冷静な議論を展開しており、いたずらに世論をヒートアップさせることは目的とはしてない。いま日本の海をめぐる状況がいかなるものであるか、その事実関係を伝えて日本人が自らその問題について考えるための材料を提供してくれているのだ。
幕末日本の警世家・林子平は、鎖国状態にある日本も海をつうじて全世界とつながっていることを指摘、海防を説いたその主著『海国兵談』は幕府によって発禁処分になり、版木は没収された。
その後、実際に黒船を目撃した坂本龍馬は「海兵隊」を結成、同じく土佐藩出身の岩崎弥太郎は海援隊を経て海運業から本格的にビジネスを始め、三菱財閥の創始者となっている。彼らはいち早く「通商国家」としての「海洋国家」ビジョンを抱いた人たちである。本年度のNHK大河ドラマ『龍馬伝』によって、日本が海にむかって開かれた国であるという認識を、あらためて多くの日本人がもつこととなるだろう。
しかしながら「生きている海と向き合う限り、変化との戦いは海洋国家の宿命である」(P.230)。このように説く「平成の林子平」による本書が黙殺されることなく、警告が一日も早く全国民の共通認識となることを願ってやまない。
国民の生命財産を守るのが政治の役割であるが、その政治の質を引きあげるのは国民一人一人の意識にあるのだ。