経済学者の立場から、通説を疑い新たな視点を見せてくれる骨太の一冊。
その主張は明確であり、「企業は社会的共通資本」という考えが良く伝わってくる。
すなわち
・経済成長重視は、「ネズミ講」と同じ考えである。また、経済成長が不平等を解消することもあり得ない。
・この50年間で日本が経験しているのは、デフレではなくディスインフレである。
・インフレターゲティングとは、インフレ税のことである。
・失われた10年とは、非金融部門では273兆円の利益をあげていたにもかかわらず、金融部門では28兆円のマイナスという事実に的確に現れている。
・貨幣数量説の重大な欠陥も、簡単な数式で説明できる。
そして圧巻は、対外直接投資の愚かさを鋭く指摘する。
対外直接投資は雇用と資本を輸出し失業と利潤を輸入する。この過程で円高になる。
まさに今の円高と若年者の雇用問題に苦しむ日本経済は、海外へと進出する企業が演出しているわけである。
この流れの中で、かつて日本の強みと言われていた日本的経営も破壊されていく。
2000年代になって盛んに喧伝されてきた株主主権という流れがこういう帰結になったとする。
加えて日本経済は、派遣法に見られるように熟練労働という考えを放棄し株主主権へと大きく梶を切った。
以上が日本経済低迷の要因である。
これに対し、著者は「ト−ビンのq」を変形した宇沢教授の「人的資本のq」を紹介し、熟練労働による賃金プレミアムの大切さを主張する。
ある意味で気持ちのいい議論を展開している。
今の日本経済の低迷を宇沢教授の「社会的共通資本」という考え方から分析した好著である。