最近までブームを巻き起こしていた「もしも〜だったら」という歴史の選択肢における他の可能性を元に歴史を再構築した、いわゆる「架空戦記」な漫画の一つ。ただこの作品が他の類似作品と違うのは、「人の香り」が強くにじみ出ているところにある。
メインストーリーは、日清戦争をきっかけに日本が政治機構の一部を広島に移転し、その後の満州事変でも「うまく」立ち回り、欧米列強との戦争を回避、アジア諸国を巻き込んだ半鎖国状態を築き上げることで欧州を中心とした「第二次世界大戦(この世界では欧州大戦になるのかも)」にも関わらず体制を維持し続けている日本において繰り広げられる諜報戦がテーマ。主人公の、広島憲兵隊の一女子隊員と、大陸から帰還したスーパー憲兵(ここでは「今のらくろ」という表現が使われている)とのやり取りを経て、この作品内における日本が陥っている閉塞感が語られている。
社会文化や人々の営みは今の日本とほぼ同じながら、軍がごく自然に市民生活に溶け込んでいるあたりは、佐藤大輔氏の類似作品に趣を類するところがある。特に、呉港(?)に停泊する、近代装備に一部装備転換がなされたあの「戦艦大和」が座する描写には圧倒させられるものがある。
この作者の漫画に共通する好意的なポイントの一つに、「設定の細かさ」、言い換えるなら「気がつけばニヤリと出来る描写が多数見受けられる」がある。戦記ものの漫画には珍しい分野に入るであろう、柔らかめのタッチには慣れない人もいるかもしれないが、読んでいくうちにその魅力に吸い込まれるに違いない。
ちなみに今作品は単刊で終了しているが、同一の設定をさらに拡大し新たなストーリーを盛り込んだ作品「平成コンプレックス」が月刊アワーズで連載中。「イリュージョン」で語りきれなかったストーリーをかいま見ることもでき、今後の期待に期待したいところだ。