『中世的世界の形成』等で知られる日本史学泰斗の一人、故・石母田正による平家物語の解説である。
しばし無常観や諦念のみが強調されがちな平家物語にあって、著者はそのような見方に疑問を呈する。「平家」は無常や諦念を賛美するだけではなく「同時にこの物語ほど人間の生への執念の強さを語った文学も少な」い。例えば「平家」の思想的核心が平知盛という「教経や重衡等のはなばなしい活躍に眼をうばわれていると、見うしなってしまいそうな」「平凡な武将」(p10)に現れていると言うのである。直感的に運命を洞察しつつも同時に「積極的、戦闘的な武将」でもあった知盛。彼の人物的特徴に「平家」の思想が象徴されていると石母田は主張する。「平家」は「あきらめ」のみならず、生の面白さをも伝えている、と。
ところで、石母田は「平家物語」の成立過程を捉え、「平家」の源平合戦は、当時の人々にとって保元・平治の乱とは違う、特別な意味を持った戦争であったと推測している(p153前後)。穿った見方になるかもしれないが、第二次世界大戦が現代日本にとって特別な意味を持つ戦争であること、本書の執筆時期から鑑みるに、石母田は平家滅亡の物語を、戦前日本の滅亡に重ね合わせていたのではないだろうか。言い換えれば、平家滅亡を通じて軍国日本の滅亡を語り、そして「戦後」という新時代の到来を、石母田は暗に宣言したと言えるのではないだろうか?と私は邪推している。