平家については、「平家にあらずんば人にあらず」といった夜郎自大で統治能力に欠けた「貴族化した武士集団」と言う知識で過ごしてきた。今回本書に接して、自分のそういった無知ぶりがいささか恥ずかしくなった。
本書は数々の古文書の資料批判を通して、学問的な水準を維持しながら、そこに現れてくる平家の公達たち一人一人を活き活きと描き出している。宮廷の位階官職や専門用語についても一般読者が判るように適切な解説を加えているのが嬉しい。
歴史の構造的部分にも力を入れている。武士社会を切り開いたのは、世上いわれているような源氏ではなく、実は平家であるとし、これに六波羅幕府という名称を与える。また平家王朝設立の企てもあったと書く。確かに平家には、藤原氏の「天皇の外戚」という役割を大きく越えるところがあった。さらに源氏の蜂起が短時間の内に全国に拡大したのは、単なる源平の争いを越えた、律令国家に対する全国規模の内乱であることを示唆する。
より興味深かったのは、頼朝の決起から平家滅亡までに5年かかったのは、その間3年におよぶ大飢饉があったこと、鎌倉幕府の成立の「画期」を頼朝が朝廷から東海・東山両道の行政権を認められた1183年としたこと、平氏が九州で勢力を盛り返したと類書に記される史実が、実は平氏は九州から追い出されたのであり、義仲と休戦協定を結ぼうとしてつかの間の小康状態を得ていたとする部分である。
書名が示すように、著者が最も力を入れているのは「平氏の群像」であり、その中心に惟盛と重衡をおく。二人とも思いがけない大任を担い、その末路は対照的であるが、どちらにも共感を覚える。その他、武士としての意地を貫き通した者、ひたすら右顧左眄した者など、公達だけでなく主要な御家人たち--私が特に興味深かったのは阿波民部太夫田口成良であるが--を網羅しているのも楽しい。平氏の群像は『平家物語』の不確かさを指摘されて一層、現代に活き活きと伝わってくるものがある。
小書ながら読み応え確かな良書である。