飛鳥・奈良時代を形作る政治の動乱を、女帝の役割に注目しながら考察する。文章は理路整然としており、史料、地理条件および考古学的発見を慎重に検討し、仮説を検証していくスタイルが一貫している。そのため、著者の思考過程がよく分かり、読みやすい。複数説あるものは併記していることも評価したい。
話は仏教受容をめぐる権力争いに始まる。仏教推進派の蘇我氏は政略婚を駆使し、天皇の外戚となることで権力を手にする。蘇我氏や後の藤原氏のような外戚は、一族の血統の入った天皇を立てて権勢を維持しようとする。この政治戦略の中で、中継ぎ役として女帝を立てたという。
飛鳥・奈良時代は、東アジアにおける日本を意識せざるを得ない国際的な時代だった。その状況下で、日本は国家戦略として飛鳥から藤原京を経て平城京へと遷都を続けた。本書の言葉を引用すれば、「国家は周辺地域の地政学的な動きのなかで、連動しながら作られていく」(p147)。
この時代には、後に続く平安時代から江戸時代までの内向きな日本の姿からは想像し難い、外に向いたダイナミズムがあった。その激動の中で、推古、斉明(皇極)、持統、元明、元正、称徳(孝謙)の各女帝および光明皇后がなした事績と苦悩が、運命や宿命といった一言では済まない泥臭い政治的人間関係を通して語られるとき、古代の女帝たちの姿がリアリティを持って読者の前に現れるだろう。