大正時代を概観的に扱った本は少ない中で、時系列で政治・軍事・外交・社会の変化を見ることができる良書である。
大正時代はわずか15年間であるが、昭和への布石が多くのところで打たれている。
「平和の失速」という題名が大正時代を見事に語っている。国内では大正デモクラシーが挫折し、対外的には国際協調路線が失敗し、大陸進出路線が台頭してくる。
昭和の不景気や大陸進出、軍部の台頭は決して昭和になって突如起きたことではない。大正時代にすでにその芽が出ていたのである。
全巻を読み終えての個人的な所見は、大正時代に世界が大きく変革した(第一次世界大戦の影響が大きい)にもかかわらず、日本はその変革をうまく捉えることができなかったと言える。その一例が元老政治の終焉である。明治の元勲たちが大正時代に次々と高齢で他界したが、後を引き継ぐ大正デモクラシーは原敬が暗殺された後後継者がいなかった。結局、原敬亡き後の政友会は陸軍の巨頭田中義一を担ぎ出すを得なかった。
著者は様々な文献をあたって、多面的な検証を試みている。その一例が退役海軍大佐・軍事評論家の水野広徳の鋭い社会批評の引用である。また、新聞の三面記事のような事件の引用も当時の世相を反映している。
大正時代がどんな時代であったかを知るための概観的入門書としては、まずこの全巻から入ることをお勧めする。