「すべての美しい馬」の直接的な続編で「越境」からのつながりもある、「国境三部作」最後の作品。
前2作を読んでいなくても読めるが、読者は当然前2作を読んでいるという前提で書いてあるので読んでないといまいち読みづらいだろう。
内容的には、青春小説としては「すべての美しい馬」に劣り、哲学性、芸術性では「越境」に劣る。
ちょっと中途半端な印象を受ける。
大傑作を目指した、というよりは前2作の主人公ジョン・グレイディとビリーの物語に決着をつけることを目的に書かれたような感じだ。
ただ、評者はこの作品で好きなポイントが2つある。
それは、
1.馬に関する興味深い文章が多い。
マッカーシーは馬が好きなのだろうか?
馬に関する文章は「すべての美しい馬」にもあったが、それより増えていてまたもっと深いものになっている。
「いい馬は自分で判断することができるよ。そういう馬は心のなかが見えるんだ。人が見てないときでもこれはやらないってことがあるからね。いい馬は自立してるんだ。そこまで調教したら馬は自分で悪いと知ってることは命令されてもやろうとしない。こっちに逆らうんだ。そこで扱いを間違えたらその馬を殺すのと変わらない。いい馬は心のなかに正義の観念を持ってるんだよ。」
評者も馬が好きなので、こういう文章を読むだけでもこの本を読んだ甲斐があったと思う。
他にも、馬の競りや種付けのシーンがあり、馬が好きなら読んでいて楽しい。
2.エピローグが特筆に値する。
「旅人の夢の話」は割と直接的な小説家と登場人物と読者の関係についての寓話だ。
マッカーシーという人はあまり作品外での発言をしないそうで、こういう小説論のような文章を読めるのは珍しいのではないだろうか。
大部「国境三部作」の最後の締めくくりに、自分の小説へのアプローチの仕方のようなものを書いておこうと思ったのかもしれない。
小説として完成していた前2作と比べてマッカーシーの私的なモチベーション+ファンサービスで書かれた部分が大きいような印象を受けた。