28の小編が束ねられた本作は、諸作品にお馴染みのユニークな仕掛けが更に掘り下げられ、ファンだけでなく、鉛筆画やだまし絵が好きな方もたっぷり堪能できる贅沢な作品だと思います。
本作はエッセイ集ですので主に日常を素材として各編が展開していますが、何度か読み返すうちに、
・「『この世界の片隅に』にまつわる後日譚」・「漫画を描くことの自由さと不自由さ」・「生命と性」・「時間の流れとその記録」…
などのテーマが繰り返し取り上げられていることに気づき、著者が日頃取り組んでいるものかと想像が膨らみます。
それらには原爆投下や青少年健全育成条例に関する、あまり平凡でない内容も含まれるのですが、タイミングの良い揶揄やオチが緊張を和らげてくれるので、ほとんどの方が安心して読めると思います。
ところで、本書にはものごとをとことん解剖しようとする姿勢がいくつも見受けられます。大根・キャベツが調理されていく一部始終を丹念に辿ったもの、一万円が一円単位で消費されていく経過の家計簿的図解、印鑑1つで挑戦した絵(点描に似ています)、夕顔の観察録(十分〜数十分単位)、桜の開花から散花までの定点観察写真(三十日連続)など他にも。普段は取りこぼすささやかな日常の一コマ一コマを丁寧に拾い上げ、まじまじと見つめては引き伸ばし思い切り遊んでみせる、著者の持ち味が全編を通して楽しめます。
そして、日常の隙間に不気味なものが横たわっているかのような、漫画家のひそやかな息づかいも時折り感じられ、『夕凪の街桜の国』『この世界…』を生んだ人の一端が伺える好著だと思いました。