そこそこにおもしろいです。
480ページを、すいすいと読ませる筆力はたいしたものです。
ただ、これだけ分厚い本を読んだのに、いかにもすごいものを読んだ、という感激、感動はありません。
なんだか、ひどく薄味なのです。
原因は、(間違っているかもしれませんが)人物が平面的なせいではないか、と考えます。
そのせいで、感情移入できないのです。
例えば、クライマックス。
主人公たちが、ごく少人数で敵と対峙します。
しかも、伊織があることに専念しなければならないために、残るふたりが敵と戦うことになります。
本来ならここは、手に汗を握るシーン。
「ああっ、伊織はあのことに間に合うのか。仲間たちは、伊織がことを終わらせるまで、敵を防ぎきれるのか」
と、ハラハラドキドキするはずなのです。
が、実際は、
「ふーん、ここはこういう設定なんだ」
としか感じません。
あるいはまた、ところどころに出てくる、伊織が冬馬に嫉妬するシーン。
読者が思わずニヤつくことになるのが普通なのに、なんだか変な感じがするのです。
伊織と冬馬が互いを憎からず思っているということは、セリフや地の文で、説明はされています。
ですから、そのような設定であることは、理解はできます。
が、実感として、さっぱりこちらに伝わってこない。
そのため、嫉妬するシーンは
「わ、嫉妬してるな、うふふふ」
ではなくて、
「ああ、作者はここで読者サービスとして、このキャラクタに、嫉妬する演技をさせているんだな」
と見えてしまうのです。
さて、もしかすると、薄味なのが、この著者の持ち味なのかもしれません。
だとしたら、このように長々と書くのは避けて、300ページくらいに、コンパクトにまとめたほうが良い印象を残すのでは、と思います。
読者がそこそこおもしろい、と感じているうちに、幕を閉じてしまう、というやりかたです。
もちろん、しろうと考えでしかないかもしれませんが。