本書(藤本ひとみ『幕末銃姫伝 京の風 会津の花』中央公論新社、2010年)は会津藩士の家に生まれた山本八重(後の新島八重)と兄・覚馬を主人公とした歴史小説である。山本八重は戊辰戦争での会津若松城籠城戦では銃砲を使って奮戦した人物である。2013年の大河ドラマ『八重の桜』の主人公である。
本書の覚馬は佐久間象山や勝海舟に師事し、開明的な思想の持ち主であった。軍備の近代化を藩に提案するも、中々採用されなかった。八重も銃砲を学ぶものの、女性蔑視の風潮の中で十分な活躍の機会を得られなかった。
作者の藤本ひとみはフランス歴史小説で名高く、幕末物は異色である。この点で同じくフランス歴史小説を得意とする佐藤賢一の『新徴組』を想起する。片や会津藩、片や庄内藩と共に佐幕派である点も共通する。
攘夷を叫んでいた志士が文明開化を主導するなど薩摩や長州の無節操・無定見を知るものにとって幕末物では佐幕派を応援したくなる。しかし、当時の幕府主流は絶望的なほど無能と頑迷であった。幕臣ながら、「幕府は潰れてもいい」と放言した勝海舟の絶望感も全く理解できないものではない。
本書も『新徴組』も主人公サイドは開明的であるが、頑迷な守旧派が障害になる。特に本書では会津藩内の守旧派が大きな壁になっており、庄内藩の軍備近代化に成功した『新徴組』以上に無念さが強烈である。
覚馬も八重も歴史的には明治以降の活躍で知られているが、本書は幕末で終わっている。それでも後の彼らの思想につながる人格形成の土台が描かれている。(林田力)