画期的な幕末史講義録である。とても面白く読み、勉強になった。
美点は3つある。
一つめ。もと原稿がカルチャーセンターでの講演であるため、語りかけの口
調が大変親しみやすく、読みやすい。同じレベルのことの述べられている歴
史書はきっと他にもあるのだろうが、この読みやすさを備えているものは他
には考えられない。名講義録『昭和史』(平凡社)とは、版元が違うのだが
同じような造本にしてあるところもよい。
第二。反薩長史観という軸足の据え方がよい。ただ、ご自身が何度もお断り
を入れているように、反薩長が絶対の正義だというイデオロギー的なもので
はない。歴史というのはいろいろな見方ができるものなのだという柔らかい
視点を手放していないところが頼りになる。とは言うものの「いまも薩長史
観によって、1868年の暴力革命を誰もが立派そうに『明治維新』といっ
ています」なんて、活字で読むとちょっと嬉しく(?)なってしまいます。
第三。幕末というとペリー来航(1853)から大政奉還(1867)・江戸城無血
開城(1868)までの30年余りを語るのが一昔前までの在り方だったが、本
書は違う。明治11年(1877)の西南戦争までを一続きのものとしてとらえ、
明治という新国家が実は大変危ういスタートを切ったことを明らかにしてい
く。その難点を、大久保利通独裁の新政府は、よく乗り切ったとも評価でき
るし、実はちょっとしたイフがその後の歴史を大きく変えたはずと読むこと
もできる。
いずれにしても、大変勉強になり、ためになる読書を楽しむことができまし
た。評者の場合は、ひたすら教えられるばかりでしたが、それなりに知識の
ある方が読まれても面白い書物なのではないかと思います。また逆に本書を
最初の一歩にして幕末期明治初期の歴史散歩に出られるのも趣き深そうです。