幕末期、漂流民となった人々の人生を描いた一冊。その漂流民の中でもジョン万次郎は有名だが、捕鯨船の船長に救われ、アメリカで冒険心溢れる生き方をした万次郎にスポットライトが当たるが、その実、望郷の念抑えがたい件はなんとも同情したくなる。漂流民は偶然の災難で太平洋に放り出されたが、その後の生き方はさまざま。帰国を諦めた者、病没する者、帰国できた者、それぞれである。
吉村昭は漂流記をいくつか作品化し、その漂流記に惹かれた作家だが、なぜ、漂流記に興味があるのか、理解が及ばなかった。しかしながら、突然の肺結核に襲われ、生命の危険にさらされた中を生き抜いた自身の体験と漂流民の生き抜く姿、帰国という執念に自身の闘病記を重ね合わせていたのだろう。
吉田松陰のようにアメリカに密航しようとして失敗した人物、新島襄のように新大陸のアメリカに密航できた人を対比することで、その動機、生きざまを知ることができる。
本書には漂流民が口述した内容が原文に近い状態で紹介されているが、これは、小説のように読みやすいものではない。しかしながら、著者が言うところの漂流民の気持ちを深く知るには原文に当たるのが妥当ではないだろうか。
尚、著者は本書の刊行前にガンで亡くなられている。心から、ご冥福をお祈りする。