著者は、かつて日本研究でも知られた反骨のアメリカの政治学者である。2000年以降に『ブローバック』、『アメリカ帝国の悲劇』、そして『ネメシス』という三部作を完成したのち2010年11月に79歳で死去した。『ブローバック』は9・11後に、その先見性が評価されて、ベストセラーになったとのことである。本書ではシーラ夫人が著者の思想的な歩みと達成を回想しており、著者の背景を理解するのに役立つ。
本書は、アメリカ内部から「帝国」としてのアメリカの実像を解き明かし、その解体が歴史の必然であることを論じている。一時期、CIAの国家情報評価部のコンサルタントを務めた経歴を持つ著者は、アメリカの権力構造を知り尽くしているだけに、内容は辛辣かつ具体的である。
著者によれば、アメリカが帝国主義国家の道を歩み始めたのは、第二次大戦後に、恒久的な国家諜報機関としてのCIA(中央情報局)が設置されたのが最初である。政軍産複合体が冷戦下での権益拡大を目指して、世界中で紛争に介入し、あるいは政治的意図の下で紛争を引き起こし(CIAの仕事)、民主的な政権の誕生をことごとく壊滅させてきた。今日のイラクやアフガニスタン戦争は、この第二次大戦後のアメリカの「帝国主義的支配」の意図の表れの一端であり、それらはいずれも膨大な数の現地市民の殺戮と国土荒廃をもたらしてきた。莫大な利益を得たのは、政軍産複合体のメンバーである軍事関連企業や情報関連企業、あるいはそれらの企業から政治献金や天下りポストを受け取る政治家達だけである。
「帝国主義的国家」は、外部だけでなく、自国の市民の自由も限りなく奪っていく。政治家に連なる企業やマスコミが「世論」を作り上げて大統領や議員が決まる現在の選挙制度は民主主義とはもはや言えない代物である。巨大な軍事費予算を浪費しながらいまだに国民皆保険を実現できてない先進国はアメリカだけである。
著者は、全世界に張り巡らされたアメリカの基地ネットワークこそ「帝国」の支配機構であるとともに、そこに「弱点」があることを指摘する。当然のことながら、沖縄基地問題にも言及し、世界に例を見ない基地集中の不当性を説く。
アメリカ内部からの「帝国解体」の経過報告として、興味深く、日本にも大きな示唆を与える本といえる。