アメリカの国際政治力の限界を論じる本、といえばジャーナリストか政治学者が書きそうな気がするが、本書の著者は新進気鋭の人口学者で、しかもフランス人である。
アメリカ人自身もアメリカを批判するかもしれないが、フランス人の著述は、より辛らつである。
アメリカはローマ帝国のような真の普遍主義を持たない、と著者は言う。本国の市民権を属州にも広げた普遍主義がローマ帝国が安定した要因だったが、アメリカのグローバリズムは自国に都合のよい“普遍主義”でしかない。
また、アメリカは決して世界を支配できるような強大な国ではなく、せいぜいイラク、イラン、北朝鮮、もしくはキューバに立ち向かう力があるにすぎない。実際はソヴィエト帝国に10年遅れて解体の一途を辿っている、とも指摘する。
本書のユニークさの源泉は、著者が人口学者という視点で世の中の動きを見ていることである。著者トッドによれば、世界を変えていく力は「識字化」(国民の大多数が文字を読めるようになること)により発生し、識字率の高まりに伴う近代化のため社会が混乱する時期を経た後、安定に向かう。やがて識字化によって個人の自覚に至った女性自身による受胎調節が普及し、地球の人口爆発は避けられるだろう、という。
人口学者としてのこの視点から、著者はかつてソ連邦で出生率が低下していることを理由に「正常なロシア人の出現」=ソ連共産主義の崩壊を予見した、という実績があるそうだ。
アメリカの衰退に話を戻すと、アメリカがアフガニスタンやイラクで軍事力を誇示してみせても、ヨーロッパや日本の警戒心を深めさせ、アメリカから離反・独立をうながすことになるそうだ。
もしアメリカがあくまでも全能を証明しようとするのなら、遂には己の無能を世界に暴露するという事態に立ち至ってしまうだろう、と本書は結ばれている。